2021年9月22日水曜日

方相氏の耳鼻誇張表現

 設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)学習 16

この記事では設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)の「弥生時代の顔の変容」の「顔壺にさぐる黥面の継承と変容」の一部について学習します。

1 方相氏の耳鼻誇張表現


有馬遺跡の顔壺(有馬遺跡14号墓出土、群馬県所蔵)

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)カバーから引用

有馬遺跡の顔壺は耳などの顔のパーツが極端に大きくつくられていて、異形の表情は盾持人埴輪に通じ、方相氏の影響を受けている。


盾持人埴輪

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

確かに、本書には次の顔壺写真も掲載されていて、耳鼻が異様に大きく表現されています。


人面付土器

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

耳鼻が異様に大きく表現される様式は本物方相氏俑で確認できます。


方相氏俑

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

方相氏の顔壺、盾持人埴輪は辟邪として、埋葬された主人をその異様な形相で敵から守ったに違いありません。

2 人面墨書土器

1の学習の結果を踏まえると、ずっと以前に学習した悪相の人面墨書土器についてその解釈を変更することがふさわしいと考えるようになりました。


平城京出土人面墨書土器の例

「古代人の顔と祈り」橿原市博物館講演会資料(奈良文化財研究所 森川実)から引用

この例では平城京出土人面墨書土器について「現代の考古学者からは、「行疫神」、「厄病神」などと思われている。」としています。

しかし顔のパーツが大きく方相氏として考え、辟邪の役割をしていたと考えるとこの墨書土器の役割が無理なく納得できます。疾病除け祈願で使われる墨書土器に疾病神の顔を描くという解釈は苦しいです。悪相であるがゆえに、その悪相は疾病神に向けられた方相氏であると考えます。


2021年9月15日水曜日

鳥が飛ぶ空を見ている弥生時代の顔

 設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)学習 15

この記事では設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)の「弥生時代の顔の変容」の「顔壺にさぐる黥面の継承と変容」の一部について学習します。

1 鳥が飛ぶ空を見ている弥生時代の顔


人頭土製品 (西川津遺跡出土、島根県教育庁埋蔵文化財調査センター所蔵)

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用


顔壺 (三島台遺跡出土、市原市教育委員会所蔵)

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

ともに弥生時代の稲作に関連する鳥信仰に因り、鳥が飛ぶ空を見ている顔の例として紹介されています。本書では弥生時代の鳥信仰が詳しく紹介されていて「鳥が飛ぶ空を意識している」という解釈にとても説得力があります。

人頭土製品の頭の突起は鳥に化身するための羽冠のようです。

2 メモ

鳥が飛ぶ空を見ている顔というモノがあることを初めて知りました。

翻って、自分が観察した縄文土偶をあらためて眺めて、顔が何を見ているか観察してみました。


私が観察記録3Dモデルを作成した土偶で顔の角度が判るものの例 1 https://skfb.ly/o6VBR


私が観察記録3Dモデルを作成した土偶で顔の角度が判るものの例 2 https://skfb.ly/o6VBR


私が観察記録3Dモデルを作成した土偶で顔の角度が判るものの例 3 https://skfb.ly/o6VBR

1~3は3Dモデルで観察して、体と頭(顔)に角度はついていません。顔は正面を向いています。土偶製作者が、土偶が自分を見るように造ったのだと思います。


私が観察記録3Dモデルを作成した土偶で顔の角度が判るものの例 4 https://skfb.ly/o6VBR

縄文のビーナス(左)は(丸い穴から出てきたような)顔は正面を向いていますが、帽子のような髪は後ろに傾斜し、人体頭部は明らかに斜め上を向いています。


縄文のビーナス https://skfb.ly/oo7xE

仮面の女神(右)の仮面は斜めについていて、側面から見ると顔に角度がついているようにみえます。つまり顔は斜め上を見ています。


仮面の女神 https://skfb.ly/oorzv

飛ぶ鳥のいる空を見つめている弥生の顔の存在を知ったおかげで、縄文土偶の顔のうち上を向いているモノがあることに気が付き、強い問題意識が生まれ、学習意欲をかきたてられます。

・縄文のビーナスの頭部は上を向いているのに、顔はなぜ正面をむいているのか?

・仮面の女神は何を見つめているのか?

・上を向いている縄文土偶はどの程度あるのか、それらは何を見ているのか?

縄文土偶の顔の角度については、場所をブログ「花見川流域を歩く」に改めて詳しく検討を続けることにします。

2021年9月6日月曜日

顔壺

 設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)学習 14

この記事では設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)の「弥生時代の顔の変容」の「顔壺にさぐる黥面の継承と変容」の一部について学習します。

1 農耕文化と壺形土器

壺形土器は穀物の増加と同調している。

●壺形土器の全土器に対する割合

・北部九州

縄文晩期…ほとんどなかった

弥生早期…1割

弥生前期…3~5割

・中部高地や関東地方

晩期終末…1割

弥生前期…2~3割

弥生中期中葉…5割

壺の用途の一つとして穀物の貯蔵がある。首がすぼまるので湿気を防ぎ、種籾の貯蔵などにうってつけ。

2 壺を人体になぞらえるのは世界的傾向


新石器時代の顔壺(中国)

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

口に三角のキャンバスをつけそこに顔を表現しています。胴に両手も表現しています。

3 再葬墓の顔壺の系譜

東日本の弥生再葬墓から出土する顔壺の表情は土偶形容器をよく似ていて目のまわりや口を囲む線刻はイレズミの表現。

その様式は遮光器土偶の末裔である結髪土偶の流れを汲んでいる。

縄文時代晩期終末の関東地方には口縁部に顔を貼り付けた深鉢形土器があり、つけられた顔は黥面である。

顔壺は西日本農耕文化の影響で増えた壺形土器を人体に見立て、縄文時代晩期の土偶の伝統を引き継いだ顔を口に描いて成立した伝統と革新が織りなすハイブリッドな造形品である。

4 再葬墓の顔壺の役割


顔壺(小野天神前遺跡)

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

弥生再葬墓遺跡で壺形土器が100個ほど出土しても、顔壺は1つしかない場合がほとんどである。したがってそれ自体墓を代表する蔵骨器であった可能性が高い。再送に祖先の仲間入りという目的を考えると、顔壺は祖先の像とみなされた可能性がある。喜怒哀楽を感じさせず、異形としての誇張表現のない点も祖先の像としてみるのがふさわしい。顔壺に乳房が表現された例があり、女性像である可能性がある。

5 関連学習


縄文晩期 顔面付注口土器

小諸市石神遺跡 レプリカ 2020.02.14長野県立歴史館で撮影


縄文晩期 顔面付注口土器


縄文晩期 顔面付注口土器説明

顔のイメージが上の顔壺(小野天神前遺跡)ととてもよく似ています。縄文の顔の造形が弥生顔壺に引き継がれたという説明が説得力を持ちます。

写真を拡大してよくみると口のまわりなどに線刻があり黥面であることが確認できます。

この注口土器の顔は祖先の顔を表現していて、注口土器は葬祭で使う祭器だった可能性が濃厚だと考えます。

6 感想

この学習で、縄文晩期人面土器の顔が祖先の像である可能性があり、それが弥生時代に継続したことを知りました。

この図書の学習はもともと縄文土偶に関する部分のつまみ食いを密かなる主目的にはじめたのですが、著者の研究方法「情報の多い新しい時代から情報の少ない過去に遡って論証していく(奈良平安→古墳→弥生→縄文)」にすっかりとりつかれてしまい、弥生学習をしたくてウズウズしてしまいます。また過去に集中学習した奈良平安と縄文を結びつけたく、古墳と弥生の学習を基礎からしたくなります。