設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)学習 10
この記事では設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)の「縄文土偶の顔」の「出産土偶の顔」を学習します。
1 屈折像土偶は座産の姿
屈折像土偶とは膝を折り曲げて腰を下ろし、腕を組んだり手を合わせるような姿勢の土偶をいい、これが座産の姿を表していることが詳しく述べられています。
腕部双孔土偶
設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用
2 出産の表情
「吊り目土偶」が最初に例示され、吊りあがった目とまるい口をした土偶や、顔面把手の顔が吊り目が多いと記述されています。
吊り目の顔面把手
設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用
さらに「その目とまるい口は出産時の緊迫した表情をとらえているのであろう。腕部双孔や後ろ手と同様に、出産時に息を吹く様をあらわしたまるい口も長い間、出産の表情として土偶に表現され続けたことがわかる。」と説明されています。
吊り目の土偶や顔面把手の顔が出産特有の表情として説明されています。
3 吊り目は出産表情か?
吊り目が出産特有の表情表現であるとする本書記述に疑問をもちますのでメモしておきます。
出産で緊迫した時、産婦の顔は吊り目になるでしょうか?ならないと思います。苦痛に耐えて体全体で踏ん張った時、顔面の表情は「吊り目」で表現することがふさわしいものとはなりません。目を力いっぱいつぶりますから、吊り目ではなく例えば×表示みたいなものになると思います。また口は大きく開く表現がふさわしく、小さな丸い口にもなりません。
吊り目表現は産婦の表情ではなく、産道から今出てきた嬰児の顔だとおもいます。産道と顔(頭)との摩擦で目が吊りあがって見えるのだとおもいます。
4 吊り目の顔が産道から今出た嬰児の顔としたときの土偶解釈
国宝土偶縄文のビーナス(茅野市棚畑遺跡)の顔も吊り目になっています。この土偶3Dモデルを作成した時、次の思考をしました。
ア 下腹部陰刻は妊娠線を表現している
縄文のビーナス下腹部陰刻と妊娠線との対応
縄文のビーナスの下腹部は出産がまじかになった様子を表現しています。
ブログ「花見川流域を歩く」2020.06.28記事「国宝土偶「縄文のビーナス」の下腹部陰刻」
イ 土偶縄文のビーナスは女の一生を表現している
土偶縄文のビーナスに見る女の一生
顔は産道から今出た嬰児の顔と理解し、その女性が少女から妊娠、出産まぢかの体まで変化する女の一生の様子を一つの土偶が表現していると考えました。
ブログ「花見川流域を歩く」2019.12.09記事「土偶(国宝縄文のビーナス)(茅野市棚畑遺跡) 観察記録3Dモデル」
ウ 土偶縄文のビーナスにかかわる女の一生観念
土偶縄文のビーナスにかかわる女の一生観念
ブログ「花見川流域を歩く」2020.06.29記事「国宝土偶「縄文のビーナス」女の一生の意味」
エ 吊り目の顔が産道から今出た嬰児の顔としたときの土偶解釈
ア~ウの思考に基づいて、吊り目の顔面把手について、次のような解釈をしました。
吊り目の顔面把手に関する解釈例
・出産の2画面表現をしていると考えます。産道から今出た嬰児の顔と座産の姿の2画面があたかも1人のように表現されています。
・2画面表現は誕生→成長→妊娠出産という女の一生(女の幸福、女の使命)を暗喩として表現していると考えます。
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参考 縄文中期前半土偶(国宝縄文のビーナス)(茅野市棚畑遺跡) 観察記録3Dモデル撮影場所:茅野市尖石縄文考古館
撮影月日:2019.09.13
4面ガラス張りショーケース越しに撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 59 images(Masquerade機能利用)
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