2021年3月23日火曜日

黥面(ゲイメン 顔のイレズミ)の歴史

 設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)学習 5

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)の「黥面考」を学習しました。顔イレズミの歴史全貌の最新知識を整理したかたちで知ることができました。著者に感謝、感謝です。

黥面絵画の分布分析、3世紀中国史書「魏志」倭人伝記述の分析、黥面埴輪の分析、日本古代における中華思想の分析などを総合して、縄文土偶黥面→弥生時代黥面絵画→古墳時代黥面埴輪という黥面(顔のイレズミ)系統の説明は説得力があるとともにとても面白い説明になっています。

黥面の物的証拠(黥面皮膚の出土)はありませんが、情報と論理を駆使することによって、黥面といわれる出土物が本当に顔のイレズミに対応することを論証しています。


黥面絵画の分布

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用


黥面絵画様式の変遷

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

webを検索したところWikipediaの項目「Tā moko」でマオリ族の黥面図像を見つけました。列島原始・古代の黥面とマオリ族の黥面がデザイン面で通底していることは誰が見ても明らかです。マオリ族黥面にどのような物語がリンクしているのか、いつか調べたいと思います。縄文学習の参考になるかもしれません。


マオリ族の黥面(Sketch of a Māori chief by Sydney Parkinson (1784))

Wikipedia「Tā moko」から引用


マオリ族の黥面 部分 (Portrait of Tāmati Wāka Nene by Gottfried Lindauer (1890))

Wikipedia「Tā moko」から引用


2021年3月16日火曜日

人面墨書土器

 設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)学習 4

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)の方相氏、辟邪の概念に触発されて、過去に熱中したことのある人面墨書土器についてふりかえってみました。

5年前に下にリンクしたような人面墨書土器関連記事をブログ「花見川流域を歩く」にかきました。その時は方相氏、辟邪という概念を知りませんでした。自分の問題意識は土器に描かれた人面が人か鬼(疾病神)というものでした。

ところが、今ふりかえると、鬼(あるいは疾病神)と考えた人面墨書土器例(平城京出土人面墨書土器の例)は、実は方相氏、辟邪であると根本的に疑い始めました。

当時は土器に鬼(あるいは疾病神)を描いて、それを川や溝など結界と考えられるところに置き、「鬼は外」のような気持ちで使ったのではないかと自分を納得させました。

しかし、土器に辟邪を描き、それを結界に置いたと考えると、その方が祈願のあり方として全うです。

土器に鬼(あるいは疾病神)の姿を描くという行為が、鬼(あるいは疾病神)を退治することに結びつくという祈願のあり方は普通ではあり得ないと考えるようになりました。

人を襲い食う鬼や人を病に倒す疾病神が怖がるような辟邪を土器に描き、その土器に辟邪が喜ぶ食べ物を入れ、辟邪が思う存分鬼や疾病神をやっつけるように祈願したのではないかと考えるようになりました。

自画像とは到底考えられない悪相の人面墨書土器は辟邪かもしれないと考えるようになりました。


平城京出土人面墨書土器の例

「古代人の顔と祈り」橿原市博物館講演会資料(奈良文化財研究所 森川実)から引用

千葉県出土人面墨書土器の多くは自画像で、国神(国玉神)に延命をお願いし、延命をお願いするものがこの顔ですと自画像を書いたといわれています。


千葉県出土人面墨書土器例1


千葉県出土人面墨書土器例1

方相氏、辟邪はその後鬼に零落するようですが、墨書土器の時代はまだイキイキとした方相氏、辟邪が活躍していたに違いありません。

ブログ「花見川流域を歩く」の人面墨書土器関連記事

2016.04.24記事「人面墨書土器の人面は人か鬼か?

2016.04.25記事「千葉県出土人面墨書土器の人面は祈願者の自画像

2016.04.27記事「珍しいイスラム人面画を触媒とした人面墨書土器の意義再考察 その1

2016.04.28記事「珍しいイスラム人面画を触媒とした人面墨書土器の意義再考察 その2

2016.08.25記事「上谷遺跡 人面土器・多文字土器出土の特徴

2015.05.07記事「八千代市白幡前遺跡 墨書土器の文字の意味


2021年3月10日水曜日

笑う盾持人埴輪

 設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)学習 3

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)の「方相氏と「鬼は外」の起源」で、弥生時代に紀元前漢帝国からもたらされた辟邪(へきじゃ)[邪悪なものを退散させる想像上の動物]としての方相氏について学習しました。その事例の一つとして笑う盾持人埴輪が説明されています。笑う盾持人埴輪の写真が印象に残り、濃い感想が生まれましたのでメモします。


盾持人埴輪

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

図書では、盾をかざした威嚇表現なのに笑っている理由を、天鈿女(あまのうずめ)が笑いで猿田彦の眼力に立ち向かった神話を引き合いに出す、辟邪説で説明しています。

笑いに辟邪の意味があるとすれば、その笑いは攻撃的、破壊的であり、相手に恐怖心を与え、相手の闘争心を萎えさせるものです。

盾持人埴輪は、相手(邪悪で強力な侵入者)よりも、それに立ち向かう自らの方がはるかに武力、知力、気力が優っていて、その自らの圧倒的優越性を相手心理に直接知らせるための手段として笑いを使っているのだと思います。

実際に戦えば相手を確実に圧倒殲滅できることを確信しているので、その確信に一点のくもりもないので、その自らの意識を笑いという手段で相手に直接提示したのだと思います。笑いの本質の一つに相手に対する優位性表現があることは万人が理解しています。

盾持人埴輪は実闘争の前に心理戦、情報戦で勝利している様子を表現していると考えます。

古墳社会における闘争において心理戦、情報戦が行われていた様子をこの盾持人埴輪は伝えていると考えます。


2021年3月6日土曜日

方相氏

 設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)学習 2

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)の「方相氏と「鬼は外」の起源」で、弥生時代に紀元前漢帝国からもたらされた辟邪(へきじゃ)[邪悪なものを退散させる想像上の動物]としての方相氏に関する、日本における詳しい展開を学習することができました。私にとってはほとんど知識がゼロの分野ですからとても新鮮な学習となりました。興味を誘う魅力的な文章展開は発掘情報と豊かな文献情報がしっかりと結合しているから生まれたのだと思います。

私が理解した情報のなかで特段に興味のあったものを列挙します。

1 紀元前漢帝国の方相氏


方相氏が描かれた画像石

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

人を食っている巨人に立ち向かう方相氏が描かれています。方相氏はこの絵のように人間離れした獣のような姿や頭に武器を乗せたり、あるいは突起のようにかさ上げした頭部など異様にした姿で描かれます。異様な姿や憤怒の姿で邪悪を退散させます。

2 弥生時代終末3世紀纏向遺跡から見つかった木製仮面


木製仮面(桜井市纏向遺跡出土)

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

木製仮面出土土坑から盾の破片や鎌ないし戈(か)の柄の木製品が出土していて、木製仮面をつけた方相氏が活動していたと推察できます。

3 盾持人埴輪


盾持人埴輪(下は仮面をつけている)

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

古墳時代に古墳を邪悪から守るものとして盾持人埴輪がつくられたが、方相氏に起源を持つと考えられます。

4 平安時代の方相氏


法隆寺の乾闥婆面

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

平安時代の方相氏は黄金の四ツ目仮面をつけて赤と黒衣装の大男で、邪悪を退散させる儀式の役を演じたことが記録にのこっています。

方相氏は節分の豆まきや歌舞伎の見得ポーズや相撲の四股と深く関連しています。

また方相氏のすさまじい形相やいでたちが誤解・曲解され、方相氏はその後、鬼に転落(零落)しました。

5 感想

2021.03.04記事「設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)を読み始める」で引用した一つ目墨書土器の一つ目生物が壁邪であることがよくわかりました。

つづく


2021年3月4日木曜日

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)を読み始める

 設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)学習 1

書店をブラブラ歩いている時、新刊書コーナーの目立つところに設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)が並んでいました。考古学関係新刊図書を見かけることは少ないので、また内容がとても興味深いので購入して読み始めました。


設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)

読み進めながら興味深い事柄をブログ記事としてメモすることにします。

1 目次(大項目)

歌に詠まれた纏向仮面-プロローグ

日本最古の妖怪画

方相氏と「鬼は外」の起源

鯨面考 顔のイレズミの歴史

縄文土偶の顔

弥生時代の顔の表現

2 日本最古の妖怪画

この図書では最初に、神奈川県茅ヶ崎市下寺尾官衙遺跡七道伽藍出土の一つ目生物を描いた墨書土器を出発点にして、鬼の素性や起源を説明しています。


一つ目墨書土器

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用

墨書土器や人面墨書土器について、以前興味をもって多数ブログ記事を書いていた頃がありますので、導入からこの図書に興味が深まります。

古典文学や絵画なども参考に、また同時代の人面遺物を事例として引用しつつ、一つ目墨書土器の考古学的解釈が行われていてこの図書に引き込まれます。

弥生時代古墳時代からの漢帝国との交渉の中で鬼の源流が伝来したという見立てに興味が湧きます。

つづく