ジャレド・ダイアモンド著「銃・病原菌・鉄」 8
2019.06.13記事「農耕を始めた人と始めなかった人」で学習した「狩猟採集生活から食料生産生活へと移行させた要因」のうち「要因4 人口増加による自己触媒的な食料生産活動の活発化」は縄文時代人口急増と急減現象の解釈に利用できると考えます。そこで「銃・病原菌・鉄」と離れて縄文時代加曽利EⅡ式期をピークとする人口急増とその後の人口急減について考察します。
1 人口増加による自己触媒的な食料生産活動の活発化 「銃・病原菌・鉄」抜粋
人口密度の増加と食料生産の増加との関係である。考古学の調査においては、食料生産がおこなわれていた証拠が見つかると、その場所の人口が稠密化した証拠もかならず見つかる。
人びとが食料生産の生活様式へと移行していく過程で見られるのは、自己触媒と呼ばれる作用になぞらえることができる。自己触媒的過程においては、結果そのものがその過程の促進をさらに早める正のフィードバックとして作用する。人口密度の増加は、知らず知らずのうちに野生植物を栽培化する方向に歩みはじめた地域において自己触媒的に作用し、ますます人びとを食料生産に駆りたて、その結果、地域の人口密度はさらに増加したのである。
やがて人びとが定住して食料を作りだすようになると、出産間隔が短くなり、その結果、より多くの子供が生まれ、より多くの食料が必要になった。食料生産と人口密度の増加の因果関係が双方向的に作用していることが、一エーカーあたりの産出カロリーの増加にもかかわらず、栄養状態においては農耕民のほうが狩猟採集民よりも劣っているという矛盾を解き明かしてくれる。この矛盾は、入手可能な食料の増加率より、人口増加率のほうがわずかばかり高かったことによって生じているのだ。
2 縄文時代における自己触媒的食料獲得量増加の可能性
「銃・病原菌・鉄」では農業がおこなわれるとそこに自己触媒的食料生産活動があらわれると論じています。
農業(栽培による主食生産)がおこなわれていなくても、採集活動でも活動の工夫があり食料獲得量増加が可能になった場合、人口が増え自己触媒的にさらに食料獲得量増加が起こるという現象がありうるのではないかと仮想しました。
例えば、ドングリを効率よく広域から収集して1カ所に集めることができる社会体制が発明され、さらに多量ドングリを効率よく短時間で保存食に加工する技術が発明(アク抜き技術、巨大土器とそれを運用できる炉の技術等の革新・発明)されれば、これまで以上に人口を養うことができます。
人口が増えればそれらの技術をさらに革新して食料獲得量増加に励むことができると考えます。そのような成長期にはドングリの味付けに工夫がなされるとか、様々なプラス要素が加わり社会は活性化してさらに人口急増する素地ができます。
縄文中期・後期頃は定住していて生業に関して土地を高度に管理していたと考えられますから、自己触媒的食料獲得量増加があってもおかしくないと考えます。
3 加曽利EⅡ式をピークとする人口急増とその後の人口急減
加曽利EⅡ式をピークに人口急増があり、その後人口急減(社会崩壊)があったことは次の資料に示すように知られています。
竪穴住居数グラフ
加納実先生講演「縄文時代中期終末から後期初頭の様相」映写 追記
武蔵野台地東部域の人口増減 小澤政彦先生講演「東関東(千葉県域)の加曽利E式」映写
関東地方西南部における竪穴住居跡数の推移 「千葉県の歴史 通史編 原始・古代1」から引用
4 「加曽利EⅡ式人口急増とその後の人口急減」現象の解釈
ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」における自己触媒的食料生産活動活発化説を援用すると、「加曽利EⅡ式人口急増とその後の人口急減」現象を次のように解釈できます。
ア これまで以上に効率よくドングリを収集し、多量の保存食加工が一気にできる体制・技術が発明された。
イ 保存食(主食)が豊富になったので人口が増加した。
ウ 人口増加に伴い保存食をさらに増大させる社会体制変革や技術開発が進んだ。
エ 人口増加率が保存食増加率を上回った。
オ 天候不順等を引き金にして飢饉が発生し、社会が崩壊した。
5 考察
4の解釈を採るとすればさらに次の説明をしなければなりません。
・最初になぜ保存食増大にかかわる社会体制や技術の発明があったのか、その理由。
・関山式と堀之内1式のピークも同様の説明が可能か。
・気候変動との関わりはどうか。
加曽利EⅡ式の巨大深鉢土器 加曽利貝塚博物館2019.02展示
多量ドングリのアク抜きに使われた「業務用土器」と推察します。
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