設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)学習 8
この記事では設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)の「縄文土偶の顔」の「土偶の誇張表現」を学習します。
1 山形土偶からみみずく土偶への変化
関東地方縄文後期の山形土偶からみみずく土偶への変化について本書ではとても興味深い分析をしています。その分析を自分なりに理解すると次のようになります。
山形土偶からみみずく土偶への変化に関する記述の理解
関東地方縄文後期中頃の山形土偶から後期後半のみみずく土偶に変化していく時に、頭ががどんどん大きくなり、土偶がキャラ化(ゆるキャラ化)しているという示唆が述べられています。またみみずく土偶の頭には漆塗りの湾曲した櫛が2つから3つ刺さっているという推察が述べられています。
この興味あふれる記述に大いに刺激を受けて、自分も山形土偶とみみずく土偶の比較をしてみました。
2 山形土偶とみみずく土偶
山形土偶とみみずく土偶
山形土偶とみみずく土偶を比較して、山形土偶→みみずく土偶で消えたもの、誇張・新たに生まれたもの、残ったものを雑駁ですがメモしてみました。
山形土偶→みみずく土偶で消えたもの、誇張・新たに生まれたもの、残ったもの
山形土偶→みみずく土偶で
消えたもの・・・乳房、妊娠腹、首から下腹部への垂下線→女性性、残酷性
誇張・新たに生まれたもの・・・丸い耳飾、大きな髪形(複数の櫛)→意表をつく造形(キャラ性)
残ったもの・・・丸い目、丸い口、異常位置の短鼻、脚の輪切り線→残酷性から造形性に転換?
山形土偶にある乳房、妊娠腹がみみずく土偶では消えていますから女性性が消えているといえます。首から下腹部に至る垂下線はこの女性の腹(体)を切り裂く線と考えていますが、この線がみみずく土偶では消えるのですから残酷性が消失しています。
一方、丸い目や丸い口は本来断末魔にある女性の半死の白目、血の泡を吹く口であると考えますが、みみずく土偶ではこれに耳飾の丸が2つついて4つの丸による意表をつく造形を作り出しています。目よりも上にあるような短鼻(鼻削の跡)とあいまってユーモラスなゆるキャラ風の風貌になっています。造形の意味が残酷性からユーモラス性に転換しているのだと思います。誇張した髪型と大きな頭部がますます意表をつくユーモラス性を増幅しています。
参考 山形土偶に関する私の想像
3 感想
地母神殺害再生神話に基づく土偶祭祀が、時間の経過とともにゆるキャラ土偶をつかった口当たりの良い祭祀に変貌していったのかもしれません。
縄文後晩期は社会が危機的になったので祭祀が異常に発達したという趣旨の考えが本書でも各所で語られます。別書では縄文後晩期は祭祀でがんじがらめであり、息苦しい社会であったとも書いてあります。しかし、山形土偶からみみずく土偶への変化は縄文後期後半には祭祀が形骸化していた可能性を示唆するかもしれないと想像します。危機的状況にある社会を引き締めるべき祭祀が形骸化して、土偶もゆるキャラ化して、社会の統率が弛緩して、社会が内部から崩壊した可能性の想像を禁じ得ません。
4 参考 山形土偶の3Dモデル
山形土偶(千葉市加曽利貝塚) 観察記録3Dモデル 画像縄文後期加曽利B3式、千葉市加曽利貝塚南貝塚(Ⅴトレンチ)
撮影場所:加曽利貝塚博物館 常設展示
撮影月日:2020.07.14
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v.5.001 processing 39 images
3Dモデルの動画
5 参考 みみずく土偶の3Dモデル
安行系ミミズク土偶(我孫子市下ヶ戸貝塚) 観察記録3Dモデル撮影場所:我孫子市教育委員会1階ロビー
撮影月日:2019.08.20
ガラスショーケース越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.506 processing 30 images
3Dモデルの動画
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