2018年5月15日火曜日

猪に込められた祈りと願い

猪の文化史考古編 16

この記事では「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)の「第2章猪の埋葬、そして祈り 4猪に込められた祈りと願い」の学習をします。

1 猪に込められた祈りと願い
著者が2001年12月に宮崎県西都市銀鏡の里を訪れ、猪を捧げる祭を見学した様子がかかれています。
縄文の遺跡から発見される猪の頭蓋骨の意味を考える手立てを得られるかもしれないという期待を持って見学した様子が詳しく記述されています。
国の重要無形文化財である銀鏡神楽の開催にあたって直前に獲れた猪の頭部が奉納されていて「オニエ」と呼ばれ、「贄(にえ)」であり、神にささげる供物です。

銀鏡神楽のオニエの猪 「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用
神楽では「ししとぎり」(猪の狩にかかわる見定め)が構成要素になっています。
神楽の翌日には猪の頭を焼き、参加者に猪の肉と酒がふるまわれます。
頭骨の一部は山麓に埋められ、著者はアイヌの人たちが行う熊祭にも似た物送りの思想が息づいていると述べています。
この現代社会に伝わっている猪祭祀例を思考上のテコとして活用して著者は縄文時代猪埋葬や埋納事例を詳しく検討して、次のように結論を述べています。
以上、縄文時代における猪について、成獣と幼獣の祭祀での役割を考えてきた。成獣は豊猟を願う儀式ー鎮魂、感謝を含めた物送りのような儀式に用いられた可能性を考えた。遺跡全体から発見される焼けた獣骨片もこれに含まれるのではないだろうか。そして幼獣については、より広い視野での豊穰や命のよみがえりを願うための犠牲獣として、その役割を演じたものとみなしたのである。」「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用

2 感想
縄文時代の習俗を彷彿とさせるような祭祀が現代に伝わっていることを見つけ出しその現場に足を運び、縄文時代祭祀に関する思考を深める著者の活動が大変魅力的で刺激的です。
思考面における既成枠にとらわれない積極性があれば、現代民俗も縄文時代遺構・遺跡に関する情報と重ね合わせる思考が可能となり、縄文時代遺構・遺跡の解釈が豊かになると考えます。

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