山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)学習 39
「第五章 精神文化の発達と社会の複雑化 後期・晩期(Ⅳ期)」の「6 階層社会へのきざし」を学習します。
1 社会の階層化プロセス
・階層社会とは、「一つの社会がいくつかのグループに分かれており、財貨・名誉など、有形・無形の社会的財産の分け前がグループによって違う、つまり社会的な価値が不平等に分配される社会のことである。
・社会の成層化プロセス
Ⅰ段階:単一の埋葬小群で構成される、あるいは埋葬小群が複数存在しても、装身具・副葬品がない、もしくはそれらが些少な、等質的な墓地・墓域の段階。
Ⅱ段階:埋葬小群が複数存在し、共同墓地的な様相をもちつつも、特定の個別墓に稀少性や付加価値性の高いものが集中する段階。特定の個人が発現する。
Ⅲ段階:埋葬小群が複数存在し、特定の埋葬小群に埋葬施設に対するエラボレーション(労働力の投下度合い)の高いもの、稀少性や付加価値性の高いものが集中する段階。装身具・副葬品にも大きな差異が存在し、特定の集団が浮上する。
Ⅳ段階:先の状況を踏まえて、墓域内から特定の埋葬小群が外に出る、あるいは特定埋葬小群から特定の個人たちが飛び出す段階。特定集団が突出し、エリート層が析出する。
2 キウス周堤墓群
・キウス周堤墓群は、大小八基の周堤墓から構成されており、中でも最大規模を誇る二号周堤墓は、外径七五メートル、内径三二メートル、周堤内の掘り込みから、盛り土の最頂部までの比高差は五・四メートルもある。最も小さな一二号墓でも、外径三〇メートル、内径一六メートルにも及ぶ。実際に周堤墓の内側に入ってみると、その大きさ、深さには、これが縄文時代の墓かと驚くばかりである。
山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)から引用
3 周堤墓が構築される社会
・当時の社会には、周堤墓に埋葬される人/埋葬されない人という差、そして周堤墓内に埋葬される人々の間には、周堤墓の中心部に埋葬される人/周堤墓の内部空間に埋葬される人/周堤上に埋葬される人という、何らかの差が存在したと想定されることになる。この場合の差とは、墓を造り営む上で投下されたさまざまな意味での「労働力」の差、実質的に格差とも言うべきものである。
4 周堤墓以降の社会
・カリンバ遺跡からは、さまざまな装身具・副葬品が出土しているが、その大部分は規模が大きく、地点的にも一ヵ所にある特定の土坑墓群に集中している(図61)。
山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)から引用
Ⅲ段階に達している。
・ただし、その場合の階層性が、政治的な権力(power)によるものなのか、それとも宗教的あるいは呪術的な権威(authority)によるものなのか、それとも狩猟が上手であった、あるいはヒスイなどの遠隔地交易品を持ち帰った、大きなイノシシやクマを倒したなど、後天的に獲得される何らかの威信(prestige)に基づく影響力(influence)によるものなのか、そしてその階層は生まれながらにして維持されるものなのか(ascribedstatus)、あるいは後天的な努力によって獲得されるものなのか(achievedstatus)という点については、さらなる議論が必要だ。
山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)から引用
5 東北地方北部にみる階層化の兆候
・東北地方の北部における後期の墓制には、階層社会の存在の可能性を垣間見ることができる遺跡もいくつか存在する。
山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)から引用
6 階層化の実態
・その階層化が集団内で常態化していた(ヒエラルヒー)のか、あるいは特定の場合にのみ強く発現するようなもの(ヘテラルヒー)に過ぎなかったのかについては、さらなる検討が必要だろう(図64)(松木二〇〇七)。
山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)から引用
7 持続しなかった階層化
・なぜ階層社会は持続しなかったのだろうか。さまざまな理由が挙げられるだろうが、私が一番重要だと思っているのは人口である。階層・階級といった社会的な成層化が維持されるためには、相当程度の人口が必要である。世界各地の事例をみても、階層化・階級化した社会は数千単位以上の人口を抱えている場合が多い。それと比較して、縄文時代の集落、地域社会の人口(おそらく多くても数百人単位だろう)を考えた場合、一時的に階層化が生じたとしても、それが親から子どもに安定的に世襲され、恒常的に長期にわたって維持されるには少なすぎる(林一九九八)。それが階層社会が持続しなかった理由ではないかと私は考えている。
8 感想
・階層化といっても単純ではなく、どのようなレベルであるのかよく知る必要があることを学びました。
・階層化が持続できなかった理由が人口が少ないことであるとの指摘をよく噛みしめて学習します。遺跡・遺構・遺物にその考えを投影して、その考えについて実感できるようにしたいと思います。
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