2020年6月27日土曜日

中期の社会構造

山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)学習 31

「第四章 人口の増加と社会の安定化・社会複雑化の進展 前期・中期(Ⅲ期)」の「5 さまざまな墓制の展開」の小見出し「中期の社会構造をさぐる」「特別な人物の出現」「ヒスイとコハクの利用」「「縄文威信財」を佩用する人々」「「特別な人物」の姿」を学習します。

1 中期の社会構造をさぐる
・中期には分節構造を持つ大型の墓域が目立つ。
・中央部墓域、外側掘立柱建物、竪穴式住居が同心円状環状配置例…岩手県西田遺跡
・後期に青森県風張遺跡、秋田県高屋館遺跡など類例。

岩手県西田遺跡における企画性のある遺構配置
山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)から引用

・中期関東地方では廃屋墓がみられる。…加曽利EⅠ式期は関東地方の墓制の画期をなす。
・中期には「甕被り葬」が目立つ。頭部だけ持ち去る例も多い。

甕被り葬
「千葉県の歴史 資料編 考古1(旧石器・縄文時代)」から引用

・姥山貝塚接続溝一号(B9号)住居跡出土5体の分析結果解釈から、男性が他の血縁集団から参入し婚入した可能性があり、妻方居住婚が推定される。

千葉県姥山貝塚B9号住居跡における人骨出土状況
山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)から引用

・関東地方では中期における妻方居住婚から、後期初頭の選択的居住婚を経て、後期中葉までには夫方居住婚へ変遷したと想定されている。
・母系的な社会から双系・選系的な社会を経て父系的社会へ変化したと思われる。

・長野県棚畑遺跡(中期中葉~後葉)環状集落の土坑墓群中央部付近土壙から「縄文のビーナス」が出土している。


縄文のビーナス

・縄文のビーナス出土土壙は子ども専用墓で縄文のビーナスは子どもへの副葬品であり「子どもへの投資」として理解できる。
・近隣子ども墓からはヒスイやコハクが出土している。
・世襲的地位の継承が存在した可能性があり、縄文中期に社会的成層化が存在した可能性を無下には否定できない。

2 特別な人物の出現
・岩手県西田遺跡の環状墓域中心部土坑墓に埋葬された人々は特別な人々であった可能性がある。
・早期末から前期前葉の福井県桑野遺跡土坑墓から玦状耳飾りが出土し、それを着装できた人も特別な人であった可能性が高い。

3 ヒスイとコハク
・ヒスイ原石は新潟県糸魚川流域にしか産出しない。
・ヒスイ大珠は中期以降北陸・中部・関東地方から多く出土している。
・ヒスイ製品製作遺跡…新潟県長者ケ原遺跡(中期)、大塚遺跡(晩期)、寺地遺跡(晩期)、細池遺跡(晩期)、富山県境A遺跡(中~晩期)
・青森県三内丸山遺跡からは原石や未製品なども出土していて、特別な遺跡であった傍証となっている。
・コハク産地…千葉県銚子、岩手県久慈に限定
・長野県棚畑遺跡や梨久保遺跡などからコハク製の小玉類出土し、銚子産といわれる。

4 「縄文威信財」を佩用する人々
・ヒスイ製大珠を身に帯びたのは環状集落集団内の特定人物、おそらく最高位の人物と結びついていたと考えられている。
・千葉県有吉南貝塚甕被り葬男性人骨はイルカの下顎を利用した特殊な腰飾りを佩用していた。

イルカ下顎性腰飾り
「千葉県の歴史 資料編 考古1(旧石器・縄文時代)」から引用

・中期には地域によってはすでに「特別な人物」が存在していたようだ。

5 「特別な人物」の姿

三内丸山遺跡出土土器に描かれた人物画(右)と岩手県御所野遺跡出土土器に描かれた人物画(左)
山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)から引用
・右は儀式をしているシャーマン、左は昆虫の触覚状のものが伸びている。
・東日本では中期までに特別な人々が出現していたと考えられるが、どのような力を持ち、それが無条件に世襲されていたのかは今後の検討である。

6 感想
ア 甕被り葬
甕被り葬はそのまま埋葬すると故人の悪霊があの世とこの世に悪影響を及ぼすことを防ぐ霊的な葬送であると想定します。
普通ではない病死(顔や肉体が著しく変形する病気など悪霊による病気の死)とか、不慮の事故死(悪霊に殺されたと感じられるような死)などを想定します。

イ 母系社会から父系社会への変化
母系社会から父系社会への変化は次のようなイメージでとらえることができます。

母系社会から父系社会への変化イメージ
「千葉県の歴史 通史編 原始・古代1」収録図に書き加え

加曽利EⅡ式期の人口急増とその劇的な破綻(社会崩壊)が母系社会から父系社会への転換の背景にあることは確実です。加曽利EⅡ式期をピークとする人口急増→社会崩壊が社会の在り方を根本的に変化させたと考えます。

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